よくわかる消防官試験のための論作文術

よくわかる消防官試験のための論作文術 土屋書店

この本には、ブレインストーミングという方法が掲載されております。この方法は、たとえば、2018年に東京消防庁一類で出題された論題「新規学卒者就職率と3年以内離職率【大学】、【高卒】から読み取れる課題を2つあげ、それぞれの対応策についてあなたの考えを具体的に述べなさい」のような、誰も予想できず、事前に準備できない論題が出されたときには有効かもしれません。しかし、予め出題が予想されるようなテーマにはそれほど有効なものとは言えないでしょう。出題が予想されるようなテーマに対しては、事前に答案構成などは練っておくべきだからです。

また、文章を通して内面が見られているという指摘はよいと思います。この本の指摘する通りです。私達は、文章を通して人柄が採点者に伝わるように論じていかなければなりません。もっとも、この本の中にどのように論じれば内面が伝えられるかという肝心な情報がないので、そこが残念です。

この参考書には、消防行政の取組をテーマにした解答例が6つほど掲載されています。
そのうちの一つに、中山間地域における防災防火対策という他の参考書ではあまり見られないテーマの解答例を示しているものがあります。こちらの解答例は、このテーマに対する自作の論文のベースにしてもよいかと思います。ただ、後述しますが、字数が少ないため、このままでは使えないでしょう。また、山間部の災害をテーマにしているので、東京消防庁では出題される可能性も低いかと思います。

では、そのテーマ以外の解答例はどうでしょうか。結論から言うといま一つです。理由は二つあります。まず、論文がコンパクトすぎます。本番の試験は800字から1200字ですが、この本の字数はおそらく、800字満たないくらいかと思います。私の経験では、内容に深みがあって説得力の高い文章は1000字は超えてしまうはずです。少ない字数で説得力のある論文を書くのは至難の業です。字数が少ないと、書ける文字数に制限が出てきてしまうため、内容に深みを持たせることが難しいからです。

もう一つは、取組の羅列に終わってしまっているという理由です。たとえば、154ページの2段落目には、「消防職員として行うべきこと」が書かれています。

 

消防職員として行うべきことは、~(略)~行政機関のほか、消防団や町内会などの地域コミュニティ、福祉関係団体などとの協力体制を確立しておくことである。具体的には~(略)~個人情報を関係団体が共有することが必要である。その上で、~(略)~情報伝達手段をあらかじめ確保しておく、といった防災対策を行うべきであると考える。
p154

 

まとめると、➀機関どうしの協力体制を整えること、➁個人情報を共有すること。➂情報伝達手段を確保しておくことと3つの取組が書かれています。このように「あれして、これして、それをすべきだ」というような取組だけ述べるような話の流し方をしてしまうと、全く説得力が出てきません。取組を箇条書きにしても説得力が出ないのは容易に想像できると思いますが、まさにそのような文になってしまっているのが残念なところです。

解答例に対する添削レビュー

良い点
中山間地域における防災防火対策という、他の参考書ではあまり見られないテーマの解答例を示している。
改善点
分量が少ない。
取組を羅列せず、一つ一つを深める。内容を深めれば自然と字数も増えるでしょう。