合格する消防官採用論文のポイント

消防官採用試験の対策をこれから進める人に向け、前回のブログでは論文試験の概略をお話しました。
論文試験の概略を知った皆さんが次に考えることは、論文対策のできる参考書を探すことだと思います。

そこで、私が市販の参考書を様々な視点からレビューさせていただきます。感想を述べるのはもちろんですが、その参考書にある論文を少しだけ引用させていたただき、その内容を添削するつもりでレビューしていきたいと思います。

初回は、『合格する消防官採用論文のポイント』公職研 です。

この本は、まず、掲載している論題が近年の出題傾向と合致していません。近年の出題は、ある社会状勢から問題点を指摘させ、消防行政がなすべき解決策を論じさせるというものが主流です。特に、東京消防庁は、問題の中でグラフや表などの資料を提示し、受験生に問題点を抽出させて問題点を指摘させるという出題をします。

しかし、この本の論題は、「少子化の影響と対策」というようにテーマのみを与えてしまっているため、与えられた論題に対して適切な問題点を指摘できているかという点を解答例から学ぶことができません

この本の論題は抽象的で幅広く、書くべき内容に制限がないため、どのような論理展開で論じても間違いではなくなってしまうのです。そのため、論題に的確に応えられているかという、課題正対ともいうべき一番大切な点を学ぶことができないのです。ここはマイナス評価です。

しかし、それが学べないとしても消防行政の取組を学べるのであれば、市販の参考書としての役割は十分果たしていると言えます。では、その点はどうでしょうか。この本が取り上げているテーマは試験でも頻出されるものを含みますので、取組に関する論述内容がよければ先ほどのマイナス評価を覆してお釣りがきます。

「市民の防災意識を向上させるために」というテーマで取組の中身を確認していきます。この参考書の解答例では、市民の防災意識を高めるための取組として広報普及活動を展開することを挙げています。

 方法としては、一般住民には、広報普及活動を展開することが必要であろう。
広報普及活動には、防災講演会・講習会・出張講座の開催、防災パンフレットのチラシの配布、テレビ、ラジオ、新聞、広報誌等による広報活動、インターネットのホームページによる防災情報の提供、防災訓練の実施の促進、などであろうか。
また、児童生徒には…

p165

今現在実施しているものを取り上げるのは悪くありません。験本番で誰も思いつかなかったような画期的で効果的な取組を考えることなど不可能ですし、また、その必要もありません。しかし、その話(一般住民に対する広報活動の必要性)を深めないまま次の話(一般住民ではなく、学校にいる児童・生徒)に移ってしまっては説得力を失ってしまいます

「一般住民には、このような広報活動が必要ですよね。」と述べたなら、次の話に移る前になぜ広報活動が必要なのかを述べないと、話が深まらず、文章に説得力が出ないのです。書かれている取組自体は間違っていなくても、話を深めないまま次の取組に話を進めてしまっているため、読み手は共感できません。読んでいても何だかしっくりこない文章になってしまうのです。

これは、予備校や参考書の解答例などにとても多いミスです。解答例を読んで、「言っていることは間違っていなそうなのだけど、これを覚えても合格できる気はしない」という感じを受けたのであれば、かなりの確率でこのミスが起きています。取組を列挙するだけの答案になっていないかを疑ってみてください。

さらに、この本には論文試験での致命的なミスを犯している部分があります。「少子高齢化の影響と対策」という超頻出論題の解答例の中に絶対にやってはいけないミスがあります。

これら(少子高齢化によって生ずる問題)に対し行政は何らかの対策をとらなければならないが、政策的には消防の出る幕はない。

p58

たしかに、人口を増やすために消防行政にできることはありません。間違っていません。しかし、少子高齢化という社会情勢から、人口を増やさなければならないという問題を提起していること自体が間違いなのです。このような問題を提起したら、この本の解答例の通り、たしかに消防行政に出る幕はありません。そう展開させたらその後何も書くことができなくなります。それを良解答例の中で平然とやってのけている点は大マイナスです。

採点者は消防官です。採点者は、あなたと一緒に働きたいかという視点であなたの答案を眺めています。そこに「消防に出る幕はない」と書かれていたら、この人と一緒に働きたいとは絶対に思いません。このミスは致命的ですので、絶対にやらないように気をつけてください。どんなテーマを与えられたとしても消防行政が対処すべき問題点を指摘するのが原則です。これは覚えておいてください。

解答例に対する添削レビュー

良い点
扱っているテーマは、大卒・高卒を問わず、消防官採用試験の論文に出題されそうなものを多く含んでいる。
改善点
取組を羅列せず、一つ一つを深める。
消防行政が取り組むべき論題を挙げる。